
研究室紹介
Introduction
私たち上智大学経済学部大竹研究室では、企業や社会が直面する様々な課題を、マーケティング・サイエンスの視点から解決することを目指しています。
マーケティング・サイエンス
マーケティング・サイエンスとは、マーケティングに関する意思決定の発想を豊かにすると同時にその精度を上げるために、客観的なデータと論理に基づいて市場を捉えるための基本的な考え方や具体的な方法を探究する学問です。
大竹研究室では、様々な企業や自治体との共同研究を通じ、現場で蓄積したID-POSやアクセスログなどのマーケティングデータを活用した消費者行動の解明や、具体的なマーケティング施策の立案に取り組んでいます。また、今や我々の生活の一部となりつつあるソーシャルメディア上に蓄積されているソーシャルデータや、アイトラッキングデバイスを用いて取得した視線情報など、新たに取得可能となったデータを従来のマーケティングデータと合わせて活用することで、新たな消費者行動理解を目指した研究に取り組んでいます。
現在の研究テーマの概要
基盤:様々な業種・形態におけるマーケティング課題の抽出とデータ解析技術を用いた課題解決
データドリブンマーティングを営む企業との共同研究プロジェクトの立案
- 購買行動・探索行動、オムニチャネル、カスタマージャーニー、顧客生涯価値、広告プロモーション、店舗特徴(商圏)など、マーケティング領域での主要なトピックを中心とした研究テーマの設定
- ID付きPOSデータ、アクセスログデータ、デモグラフィックデータ、アンケートデータ、テキストデータなどを分析に用いる
- 分析結果に基づく施策を提案し、実務での検証を行う
- これまでに共同研究を実施してきた小売業、サービス業、ソーシャルメディア事業者、マーケティング事業者に加え、随時新たな共同研究を立案する
発展①:ソーシャルメディア・マーケティング
SNSやマイクロブログから取得可能なデータを用いた新たな消費者行動の解明
- (マイクロ)インフルエンサーの形成プロセスの特定
- ソーシャルメディアにおける情報伝搬プロセスの解明
- 消費者コミュニティの特定及び構造理解
- 投稿コンテンツが与える影響の評価
発展②:フィジカル空間における生体データの活用
実店舗でのマーケティング施策立案に向けた、生体データの活用方法の検討
- 店舗評価・接客評価
- ゴールデンゾーンの特定
- 売り場レイアウトの検討
- テナント間の関係性の解明
研究事例
視線計測データを用いた実店舗における消費者行動理解
EC市場の台頭と新型コロナウイルスの感染拡大に伴う消費者行動の変容を背景に、実店舗の役割は大きく変化しています。特に百貨店やショッピングセンターといった多数の店舗が集約された業態では、消費者の属性や目的に対応し館全体としての体験価値向上を図るため、館内の買回りの快適性を高める必要があります。
この研究では、百貨店における消費者の回遊行動を計測する実験を通じ、購買目的や店舗に対するロイヤルティの観点から、ストアレイアウトの提案を試みました。

研究に用いるデータは、都内にある大手百貨店と共同で実店舗での購買行動実験を実施しました。具体的には、アイトラッキングデバイスを用いて、消費者の入店から退店までの一連のGaze(視線)データと、消費者の動線データを収集しました。目的店舗の有無、お気に入り店舗の有無に着目し、社会ネットワーク分析や店舗・棚単位での視線の集中度に関する分析を行い、建物内での移動行動や購買行動を促進するための施策を提案しました。

ソーシャルメディアを用いたコミュニティ構造の特定
近年、人と人とのつながりを促進する、Social Networking Service(SNS)の利用者数は年々増加傾向にあります。SNSはユーザ間のコミュニケーション・プラットフォームとしての利用にとどまらず、商品やサービスの情報収集手段としても活用されており、我々の生活の一部となりつつあります。このような状況の下、SNSを活用したマーケティング活動全般を指す、ソーシャルメディア・マーケティングに注目が集まっています。
この研究では、SNS上に存在するユーザ間によって自発的に形成されたコミュニティの構造を明らかにすることを目的に、社会ネットワーク分析を用いたユーザ間の繋がり方やコミュニティ構造の理解、自然言語処理解析技術を用いたコミュニティ内での話題の特定を試みたもので、20代女性向けのファッション誌5誌を対象として、Xから取得したフォロー・フォロワーデータを用いて読者ネットワーク構造の比較およびコミュニティ内の興味・関心についての特定を行いました。具体的にはフォロー・フォロワーの関係を社会ネットワークとして捉え、ネットワーク上に存在するユーザをコミュニティ単位に分割することで、ファッション誌ごとに存在するユーザの興味・関心に応じたコミュニティの抽出を行いました。図は、ある雑誌Aに関して、X上に形成されているコミュニティを名前付けしたものです。頂点はあるユーザを、共通のフォロワー数を重みとして頂点間の関係を表現しています。

5誌に関する比較を行った結果、あるファッション誌では特定の芸能人を強く支持するユーザが中心的なコミュニティを形成している一方、別のファッション誌では美容やコスメに関心の高いコミュニティが複数抽出されるなど、各女性ファッション誌に応じて存在する読者の特徴に差があることが明らかになりました。これらの分析結果を踏まえ、各誌に対する特集記事に関する提案を行いました。